「話し合いの大切さ」とか言ってるからまともな議論ができない

タイトルは煽り風です。すみません。

■なぜ、日本人は議論が下手なのか

よく、「日本人は議論が下手だ」と言います。
主語の大きさはともかく、外資系で外国人とも仕事をしてきた私としては、確かに相対的に「日本人は議論が下手」だと思います。

では、なぜ議論が下手なのでしょうか?
具体的に、議論が下手とはどういうことでしょうか?

私が考える、議論が下手な理由は以下の通りです。

「みんなが意見を出し合うことがが大事」と教えられていて、「どのようにして結論を導けばよいか」のプロセスは教えられてきておらず、適切な結論を出すことができないから

以下、詳しく説明します。

■ディベート研修で感じたこと

先日、ある団体向けにディベート研修を提供しました。

そこで感じたのは 「多くの人はディベートではなく、話し合いをしてしまう」 です。

ディベートは単なる話し合いとは異なります。
両者の違いはなんでしょうか。

■ディベートと話し合いの違い

話し合いでは、参加者が自由に意見を述べ、それぞれの考えを共有します。
「文化祭の出し物は、劇がいい」
「いや僕はヨーヨーすくいの店がいい」
などです。

一方、ディベートでは、明確に賛成・反対の立場を取ることが求められます。
たとえば、他者の意見Aに対して「ぼくはBのほうがいいと思う」と単に述べるのではなく、意見Aが間違っている理由や、意見Bが目的を達成できない要因を具体的に述べる必要があります。

ディベートでは、「劇がいい」の意見に対し、他の人は次のように述べるべきです。

・なぜ劇がいいのか説明してください。(説明責任は発信者にある)
・劇は、我がクラスの出し物として適切だとは言えません。なぜなら~…

■そもそも、ディベートとは

ディベートというと、論破する、相手を言い負かす、といったネガティブな印象を持つかもしれません。
競技としてのディベートはともかく、実際の業務のうえでは「ディベート的な発想」をする、すなわち「賛否を明確にして適切な結論を導く」くらいに考えておけばよいでしょう。
※以下、「ディベート」は辞書的な意味ではなく、このような「ディベート的な考え方や意思決定プロセス」を指します

ディベートを通じて、参加者は論理的思考を元に、他者の意見を批判的に検討します。
これにより、より質の高い結論を導き出すことができます。

■あなたがしてきたのは「話し合い」

一方、日本の学校教育や社会では、「みんなで話し合うこと」が重要視されます。

「話し合うことそのもの」が大事、という風潮です。
この場合、どうしても「私はこう思う」の応酬になってしまいます。
他者の意見が適切かどうかを述べると、揚げ足取りと言われかねません。

しかし、「私はこう思う」の応酬だと、究極的には「好み」「感じ方」の差になってしまいます。
さらに、

「話し合い」で出てきた意見について、どのように是非を決定すればよいかについては誰も教えてくれません。

その結果、結局は偉い人の意見や多数決で決まってしまいます。
多くの話し合いのプロセスは「みんなが思い思いに自分の意見を主張する」→「最後はなんとなく決まる」です。
これは適切な議論とはいえません。

■ディベートと話し合いの違い

特にディベートと話し合いの違いは「前提」です。 たとえば「環境保護」をテーマにするとします。 「話し合い」は以下のように進みます。

「現在、環境保護は早急な対策が求められています」
「私は特に地球温暖化対策が最も重要だと思います」
「私はそれよりもマイクロプラスチックによる環境汚染を懸念しています」

これに対し、ディベートは次のように進みます。

「現在、環境保護は早急な対策が求められています」
この意見に対し…
・「環境」を「保護」とは範囲が広すぎます。もっと具体的にしてください。
・「環境」を守るために、個人の犠牲があってもよいとお考えですか?
・「環境」を「保護」しなければならない根拠を教えてください。
ディベートの相手方はこのような発言をします。 (実際にはもっと具体的なテーマについて話し合うので、もっと具体的な意見になります。)

前者の話し合いは「私はこう思う」の繰り返し、いわば価値観の違いについてでした。
前提が違うのは当たり前で、それでなんとかうまくやっていこうよ、が「話し合い」です。

それに対し、後者のディベートは前提そのものを確認し、疑います。
価値観のぶつかり合いではなく、「是非」を問うのですから、前提が揃っていなければ結論の是非も判断できない、と考えます。

■話し合いも重要だが、ディベート的発想も

もちろん、思い思いに言いたいことを言う話し合いにもメリットはあります。
しかし、ディベートとは明確に区別しましょう。

相手の意見の前提や論理、結論などに対し、それは適切ではない、飛躍があるなど、ディベートのプロセスを経ることで適切な結論を得られるようになります。

「みんなで話し合うことは大切」と無条件に思っていないでしょうか。
「みんな」の意見が正しい保証はありません。

繰り返しますが、ディベート的発想だからといって、他者の意見にかみついたり、揚げ足取りをする必要はありません。

「私はこう思う」の前に、常に相手の意見について「本当にそうかな?」「前提は正しい?揃っている?」と考える習慣をつけましょう。

代表・幸本陽平 プロフィール

幸本 陽平
幸本 陽平
化粧品デパートのマーケティング業務に携わり、その後独立。
研修や執筆、マーケティングをわかりやすく伝えるための活動などに取り組む。

(株)東風社代表取締役 中小企業診断士 一橋大学卒
広島市在住、新潟県長岡市出身

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