【価値交換フロー】012 QBハウス(ヘアカット)のマーケティングを解説

価値交換フローは、顧客にとっての価値とその価値を交換する仕組みを整えることで、次に取るべき行動を明確にする実行型フレームワークです。 自社のマーケティングのどこが不十分なのか、お客様が買わない原因はどこにあるのかを的確に突き止められるため、「マーケティング実務の普遍的な基盤」として、新規事業の立ち上げや、既存商品の立て直し、施策の優先順位付けなど、規模や業種を問わずさまざまな場面で活用いただけます。

価値交換フローの詳細はこちら https://www.tofusha.co.jp/vex/
QBハウスのマーケティング戦略とは?
「価値交換フロー」を用いて、企業のマーケティング戦略を解説します。
今回は、ヘアカット専門店の「QBハウス」を取り上げます。
20年ほど前まで、理髪店といえば、約1時間かけてカット、シャンプー、顔剃りをセットで行い、3,000円〜5,000円を支払うのが一般的でした。
今でもいわゆる「街の理髪店」はそのようなスタイルでしょう。
昔、私がそのタイプの一般的な理髪店に通っていたとき、次のように思ったことがありました。
「ヒゲをきれいに剃ってもらうと確かに気持ちいい。でも、このすぐ後にパーティーに行くわけでもなく、どうせ明日にはまたヒゲが生えてくる。それなのに理髪店でヒゲを剃る意味ってあるのかな」
しかしそのときは「でも理髪店ってそういうもので、それが当たり前だから」と深く考えませんでした。
ところがQBハウスは、その「当たり前」を根底から覆しました。
単なる「薄利多売」ではない、QBハウスのビジネスモデルを価値交換フローで解説します。

1.価値の「引き算」による自分ごと化
マーケティング=価値交換フローにおいて大切なのは、お客様が「これは自分にぴったりだ」と思えるかどうか(自分ごと化)です。
従来の理髪店はシャンプーやヒゲ剃り、あるいは丁寧な接客といった価値を提供していました。
しかしこれらは、特定のお客様にとっては「自分ごとの価値」ではなかったのです。
たとえば……
・忙しい仕事の合間に、サッと髪だけ整えたいビジネスパーソン。
・長い待ち時間や会話が少し苦痛に感じる人。
・シャンプーやひげそりは不要だから、その分安く、早く済ませたい人。
彼らにとって、従来のフルサービスは必ずしも「価値」ではありませんでした。
人によっては余計な時間とコストだった、と言えるでしょう。
そこでQBハウスは、提供する価値を「10分間で髪を切ること」だけに絞り込みました。
「時間がない」「手軽に済ませたい」という特定の「場面」や「嗜好」を持つお客様にとってぴったりな、「自分ごと」のサービスを作りました。
2.独自ベネフィット・差異ベネフィットの提供
当初、QBハウスのようなサービスを提供する理髪店はほとんどなく、存在自体が「独自ベネフィット」の固まりだった、と言えます。
さらにその後、類似の低価格理髪店が出現しても、お客様が比較検討する際、QBハウスのベネフィットは明確です。
他の店と比較して、QBハウスが選ばれる理由は「10分でほどほどの間違いないカットをしてくれるコスパ・タイパ(タイムパフォーマンス)」です。
業界の第一人者として「短時間で、予約も不要で、どこにでもあり、はずれがない安心感」という優位性を確保しています。
そのため、利用者は他社といちいち比較する必要がありません。
「髪を切る行為に1時間もかけたくない」
「髪型にそこまで強いこだわりはない、伸びた分を切ってほどほどに整っていればいい」
と考える層のお客様にとって、QBハウスの特徴は「差異ベネフィット」となります。
3. 「交換」を円滑にする仕組み
価値が定義できても、それがスムーズに「交換」されなければビジネスとしては成り立ちません。
QBハウスは、情報の交換とサービス(商品)の交換において、独自のシステムを構築しました。
情報の交換:
QBハウスの店外には「赤・黄・青」のランプがあり、今の待ち時間が一目でわかります。
お客様は「今なら短時間で終わりそう」などの情報を瞬時に得て、納得して入店(交換の合意)ができます。
商品交換の効率化:
シャンプー台をなくし、カットした毛を吸い取る「エアウォッシャー」を導入しました。
これによって、移動の手間や片付けの時間を削り、約10分でのサービス提供が可能になりました。
流通(立地):
駅の中や商業施設など、ターゲットが日常的に通る「ついで」の場所に店を構えています。
このような利便性により、「交換」の物理的・心理的ハードルが下がります。
QBハウス×価値交換フロー まとめ
QBハウスの事例を、価値交換フローでまとめます。
価値の「自分ごと」
理髪店を「店主との社交・憩い・くつろぎの場、フルサービス」から「短時間で髪を整える場、最低限必要なサービス」へと、忙しい現代人の「場面」に適した価値を定義した。
交換の最適化:
ライトによる混雑情報や、利便性の高い立地によって、お客様が「今すぐ、手軽に」交換できる仕組みを整えた。
もしQBハウスが、ただ「安さ」だけを売りにしていたら、現在のような地位は築けず、「安いけどそれなりの理髪店」で終わっていたことでしょう。
QBハウスは「お客様が本当に求めている価値(時間と手軽さ)」を理解し、それに反する要素を取り除きました。
● お客様にとっての本当の価値は何か?(何を削り、何を残すか)
● その価値を、お客様がいかにストレスなく手に入れられるか?
この2点を突き詰めることが「価値交換フロー」には欠かせません。
【以下、補足です】
QBハウスを、価値交換フローでさらに分析します。
交換を支える「教育制度」
……10分でヘアカット、という価値を安定して提供するためには、職人に頼らない仕組みが必要です。QBハウスは社内に教育機関(ロジスカットスクール)を持ち、短期間で高い技術を身につける体制を整えています。これも、安定した価値を提供するための「交換」に寄与しています。
価格と納得感
……近年、QBハウスは値上げを行っていますが、業績は依然として好調です。コロナ期に業績が一時落ち込んだものの、その後は回復し、過去最高圏まで戻っています。お客様が「10分で済むこと」に対して、単なる安さ以上の価値(タイパ等)を感じていて、価格が上がっても「交換」に値する、と支持しているからではないでしょうか。


