吉野家が、ヘルシーな牛丼を発売するそうです。
吉野家は、健康維持に効果があるとされる成分を加えた牛丼「サラシア牛丼」を全国の店舗で売り出した。店舗での調理の際に、東南アジアなどで糖尿病予防に使われる植物「サラシア」の成分を通常の牛丼の具材に混ぜるが、味は通常の牛丼とほとんど変わらない。糖の吸収を抑え、食後の血糖値の上昇を緩やかにするという。価格は通常の牛丼より100円高い税込み480円(並盛り)。
吉野家といえども、健康志向のトレンドに逆らうことはできません。
では、「ヘルシーな牛丼」を売れば何でもいいのか?というと、そうではありません。
1.マクドナルドのサラダ
たとえば吉野家がこんな風に新しい牛丼を売り出したらどうでしょうか。
「健康を気にするお客様へ!吉野家の牛丼はヘルシーに生まれ変わります!脂質も糖質もカロリーも20%オフ!でも味はそのまま!」
仮に、もしも実際にそのような牛丼を開発することに成功しても、このような売り方では私は失敗すると思います。
それはなぜでしょうか。
お客様の「発する声」と「心の中の声」の両方を区別する必要があるからです。
もしもそのような牛丼があったら、お客様はこのように反応することでしょう。
「発する声」…へぇ、そんなヘルシーな牛丼があるんだ!食べてみたい!
「心の中の声」…牛丼くらい、カロリーとか糖質とか、そんなこと気にせずにがっつり食べたいよ。
「マクドナルドでアンケート調査をするとサラダを増やして欲しいという要望が多いが、実際に売り出すとまったく売れない」という有名な事例です。
「健康」「ヘルシー」を否定する人はほとんどいません。誰だって健康でありたいものです。
では、口に入れるものすべてに「健康」を望んでいるか?というと、必ずしもそうではありません。
ましてや牛丼はファストフード。健康になりたいなら最初から食べないよ、と考えることでしょう。
2.お客様の「気分」を起点に
ここで大事なのはお客様の「気分」です。
「脂質や糖質を抑えたヘルシー牛丼」ですと、「牛丼に求めているのは健康じゃない」と否定されます。
しかし、
「いつもの牛丼に身体に良い植物成分を『加え』ました。だから味は変わらないんですよ」
ならば、「どうせなら」それにしようか、という印象を与えられます。
この「どうせなら」がポイントです。
語弊があるかもしれませんが、乱暴に表現すると、健康やヘルシーというのは、「気分」を買うようなものです。
一食、牛丼をサラシア牛丼に置き換えただけで健康になる、なんてことはありえません。(吉野家のサラシア牛丼を否定するものではありません)
だからこそ「美味しい牛丼を食べたい」という「気分」を否定せず、同時に「いつもよりは健康に良い」という「気分」を提供することが大事なのです。
「お客様は健康志向→だからヘルシーな食品を出せば売れる」という思考では、本質の「心の中の声」を見落とします。
あるニュースサイトで、このサラシア牛丼についてのコメントに、以下のようなものがありました。
ヘルシー牛丼を出すということは、牛丼がヘルシーでないというイメージを与えてしまうからマイナス効果では
→むしろ従来のお客様は牛丼を「ヘルシーでないから食べたい」のです。ヘルシーというイメージを与えてしまう方がむしろマイナスです。
「常日頃から、脂身を抑えた牛肉を使った脂質の少ない牛丼を提供しています。だから吉野家の牛丼はヘルシーなのです」と打ち出した方がいいのでは
→これも典型的な「マクドナルドのサラダ」の例です。もしこのように言われたら、「吉野家にヘルシーさは求めていないし、味の方が大事」と反応されることでしょう。
3.人間心理はオモテとウラが必ずある
人間の心理はうらはら、表裏一体で複雑なものです。
「ヘルシーな牛丼がいい」と言いつつ、実際にそのままカロリーオフのヘルシーな牛丼を作っても、売れません。
それに対して「なぜヘルシーさを求めるのか?」「それはその瞬間の『気分』ではないのか?」などと考えると、「サラシアを加えるだけで、味やカロリー等は変えない」という選択はベストのように思えます。
「お客様のニーズを捉えて、それを商品化」というと聞こえがいいものです。
しかし、お客様の言う通りの商品を作ってもダメなのです。
なぜなら「発する声」と「心の中の声」は違うから。
「何を」求めているのか?の前に、「なぜ」求めているのか?を先に考えることが大事です。それにより、
「お客様は本当にヘルシーな牛丼を食べたいというよりも、『あーあ、身体に悪いのに牛丼を食べちゃったよ』という『罪悪感』をなんとかしたいのでは?」
といった仮説が設定できます。
お客様の「心の中の声」を常に考えましょう。
■■■このニュースから学べること■■■
1.お客様には「発する声」と「心の中の声」がある。
2.お客様の「気分」を起点に考える。
3.お客様の言う通りの商品を作るのではなく、「なぜそれを求めるか」を考える。
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