「AなのにB」はたいてい売れない

なぜ、ライトビールは売れなかったのか

かつて、日本では低アルコールで軽い飲み口の「ライトビール」が相次いで発売されました。

しかし、なかなか売れず、普及しませんでした。それはなぜでしょうか。

人は「AなのにB」という商品には矛盾を感じてしまうからです。

矛盾には「騙されないぞ」が先に来る

あなたがこれまでの「矛盾」を解決する、画期的な商品を開発したとします。

たとえば、以下のようにです。

・こってりラーメン、なのに低カロリー
・安いのに高級な外観の自動車
・吸い込む力が強い掃除機、なのにうるさくない
・短時間で作れるのに何時間も煮込んだようなカレー
・超簡単なのにすぐに英語ペラペラになる英会話本

これらの商品を開発して「矛盾を解決しました」「AなのにB」な商品です、と宣伝したら売れるでしょうか?

おそらく、売れません。

その商品が他では難しい「AなのにB」をきちんと実現できていても、です。

「でも、そんなに画期的な商品なら売れるんじゃない?」

あなたはそう思うでしょう。

では、以下のメッセージを見てどう思いますか。

「誰でも簡単にお金が儲かります」

「そうなんだ、すごいな、やってみたい」と思う人は詐欺に気をつけましょう。
そんなバカな、詐欺にはひっかからないよ、と思うはずです。

ではこちらはどうでしょうか。

「このラーメン、おいしさは変わらないのに、低カロリーなんですよ」

心からそうなんだ!食べたい!と思ったでしょうか。
いやいやそうはいっても何かを犠牲にしているでしょ、しょせん「低カロリーの割には」おいしい、ってレベルでしょ。と思ったのではないでしょうか。

そうなのです。

「簡単なのに儲かる」を簡単に信じなかったように、
人は矛盾する「AなのにB」のメッセージを見ると、「いやいやそんなわけないでしょ」の否定する気持ちが先に生まれてしまうのです。

これは心の防衛反応と言ってもよいかもしれません。

「もしかしたら、本当にそうなのかもしれない」とじっくり検討したら、(一般的には)詐欺で、ひっかかる可能性が高くなるためです。

仮に、それが真実だとしても、心理には「詐欺だ、気をつけろ」のセンサーが先に来てしまうのです。

「ライトビールだけどおいしい」はNG

冒頭の「日本でライトビールが売れなかった」理由もまさにそれです。

アメリカでは日本より先行して低アルコールのライトビールが普及していました。そこで日本のビール各社もライトビールを開発、発売していました。

各社が懸念したのは「ライトビールだから薄くておいしくないだろう」「低アルコールの軟弱な酒だろう」と思われてしまうことです。

そこで各社はあえてどちらかといえば「男くさい」男性芸能人を起用して「ライトだけど本格的な大人の味」をアピールしました。

しかし、これが消費者にとってはかえって矛盾を感じさせました。

「ライトなの?重厚なの?飲みごたえがある、って言うのなら普通のビールを飲めばいいのでは??」

このように、ライトビールのポジショニングがわかりにくくなりました。

その結果、日本ではライトビールはあまり普及しませんでした。

消費者は真実を確かめたいわけではない

「いや、我が社では本当にAなのにB、と矛盾を両立させることに成功したんだ!それを消費者にちゃんと伝えたいんだ!」

そう考える気持ちもわかります。

しかし、消費者が考えるのは「それが本当かどうか」ではありません。
考えるよりも先に「本当っぽくない、うそっぽい」が印象に残るのです。

ですから「マイナスそうで、実はプラス」という広告表現はあまり好ましくありません。

最近、糖質オフのビールがビール各社から出ましたが、それらも「糖質オフだけどおいしい!」という表現はあまりされていないですよね。

糖質オフだからその分食事はがっつりいけるとか、こっちが賢い選択だから飲む、といったような、あくまでもポジティブな面に焦点をあてる内容になっています。

「AなのにB」と矛盾を感じさせるコミュニケーションは、消費者を警戒させます。

気をつけましょう。

【まとめ】

「ライトビールだけど(味は)ライトじゃなくておいしい」のような、「AなのにB」というメッセージを使わない。消費者は矛盾を感じ、混乱する。

代表・幸本陽平 プロフィール

幸本 陽平
幸本 陽平
化粧品デパートのマーケティング業務に携わり、その後独立。
研修や執筆、マーケティングをわかりやすく伝えるための活動などに取り組む。

(株)東風社代表取締役 中小企業診断士 一橋大学卒
広島市在住、新潟県長岡市出身

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