事業戦略の基本と実践[1] (全3回)

今回から3回に分けて、「事業戦略の基本と実践」をご紹介します。
事業戦略の立案や実行に携わる方は、ぜひお役立てください。

企業が継続的に成長し、変化の激しい市場で生き残るためには、「戦略」が不可欠です。
この「戦略」という単語はよく目にするものの、抽象的でとらえどころがなく、実務にどう落とし込めばよいのか分からない、という方も多いのではないでしょうか。

本コラムでは、事業戦略とは何かを整理し、どのように考え、構築していくべきかを実務の視点から解説します。
特に管理職やマネジメント層にとって、戦略的な思考は実務を遂行するうえでの重要な力となるので、ぜひお役立てください。

戦略とは「やらないこと」を決めること

戦略というと、「何をするか」「どんなことを実行するか」を決めて実行する、というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
それも確かにそうなのですが、戦略の本質は「やらないことを決める」ことにあります。

なぜなら、企業が保有するリソース(人材、資金、時間)は限られているからです。
限られたリソースを何に集中させ、何を捨てるのか。
それを決めることが、戦略の中心です。
逆に言えば、「全部やる」は戦略ではなく、単なる行き当たりばったりの施策の連続、になってしまいます。

「頑張る」だけでは成果につながらない

戦略がないまま、社員や経営陣が「とにかく頑張る」と、事業は失敗に終わります。
「頑張る」ことそのものは、前向きで良い行いのように思えます。
しかし、戦略がないまま努力だけしても、組織の方向性を欠いたまま、バラバラな行動を引き起こしてしまいます。

たとえば、営業部門が売上拡大のためにA商品の拡販に注力している一方で、経理部門が収益のためにA商品の販促コストを削減させていたとしたら、互いに足を引っ張ることになってしまいます。

戦略が明確であれば、組織内の活動に一貫性を持たせることができます。
また、戦略に基づいた目標が定められていれば、評価や改善の基準もわかりやすくなり、全員が同じ方向を向くことができます。

戦略の3つの基本アプローチ

事業戦略には大きく分けて3つの基本的なアプローチがあります。
それぞれの特徴を簡単に見てみましょう。

1. ポジショニング戦略

競合他社と差別化し、自社にとって有利な「土俵」を選ぶという考え方です。
たとえば、IKEAは「低価格」「シンプルなデザイン」「セルフサービス」というポジションを家具の市場で確保し、その土俵の中で経営を行っています。

2. リソースベース戦略

自社の持つ経営資源(技術、ノウハウ、ブランド、人材など)を活用し、他社には模倣できない競争優位を築くアプローチです。
トヨタの「カイゼン」や「すり合わせ」、ディズニーの「キャラクター資産」「顧客体験」などが例として挙げられます。

3. 顧客価値戦略

顧客の潜在的なニーズ(インサイト)をとらえ、それに応えることで価値を提供する戦略です。
AmazonのPrimeサービスやレコメンド機能、Uberの「知らない街でも安心して移動できる」体験などが、顧客価値戦略の例です。

戦略を描くには「目的」と「一貫性」が不可欠

戦略を考える際には、「なぜこの戦略を採用するのか」「その先にどんな未来を目指すのか」といった“目的”の明確化が最初のステップになります。
これが曖昧なままでは、行動がバラバラになり、戦略としての整合性を失ってしまいます。

また、戦略は「点」ではなく「線」や「面」として考える必要があります。
部分的な施策が寄せ集められていても、それぞれが矛盾していれば効果は限定されてしまいます。
目的、環境分析、課題設定、戦略構築…という一連のプロセスを、整合性のあるストーリーとして描くことが重要です。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)が戦略の土台になる

組織としての存在意義(ミッション)、目指す姿(ビジョン)、行動指針(バリュー)を明確にすることで、戦略にぶれない軸を与えることができます。
それぞれ、使命・未来像・価値観、といってもいいでしょう。

たとえば、登山を例にとると、
「山に登る」…ミッション
「1年以内に富士山登頂」…ビジョン
「○○ルートで、歌いながら楽しく登る」…バリュー
となります。

これらが揃っていることで、関係者は迷わず一丸となって行動することができます。

戦略は「顧客を見る」ことから始まる

戦略を描くというと、競合を気にしすぎていないでしょうか。
事業の成功のためには、競合よりも「顧客」に目を向けることが重要です。

“戦わずして勝つ”という言葉があるように、最善の策は「競合を倒すこと・競合に勝つこと」ではなく、「競合と競争しないこと、比較されずに選ばれること」です。
競争を避けるためには、顧客にとって唯一無二の価値を提供できないか、と考えましょう。
そのためには、顧客が「なぜその商品やサービスを使うのか」という背景まで深く理解する必要があります。

戦略は現場でこそ生きる

戦略というと経営陣が考えるもの、実務は別、というイメージが強いかもしれません。
しかし実際には、戦略を現場で実行するのは管理職や社員一人ひとりです。
つまり、戦略は「現場の武器」であり、管理職こそが戦略の理解者であり、推進者でなければなりません。

戦略は「目的を明確にし」「環境を分析する」「課題を特定する」「やるべきことと、やらないことを決める」などで、一部の人だけの難解な理論ではありません。
これらの基本を丁寧に押さえることで、戦略を確実に実行できるようになります。

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