事業戦略の基本と実践[3] (全3回)

「事業戦略の基本と実践」、全3回の第3回、最終回です。
事業戦略の立案や実行に携わる方は、ぜひお役立てください。

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企業が継続的に成長し、変化の激しい市場で生き残るためには、「戦略」が不可欠です。
この「戦略」という単語はよく目にするものの、抽象的でとらえどころがなく、実務にどう落とし込めばよいのか分からない、という方も多いのではないでしょうか。

本コラムでは、事業戦略とは何かを整理し、どのように考え、構築していくべきかを実務の視点から解説します。
特に管理職やマネジメント層にとって、戦略的な思考は実務を遂行するうえでの重要な力となるので、ぜひお役立てください。

戦略は「ストーリー化」する

戦略とは、過去の分析ではなく、未来のシナリオです。
その戦略を現場に共有したとき、実際に行動する関係者が納得し、腹落ちしなければなりません。

戦略は抽象的な言葉で語られることが多く、現場にとっては遠い世界の概念論、ととらえられがちです。
中期経営計画、成長戦略、イノベーション…と言葉を並べても、「なぜそれをやるのか」「自分とどう関係があるのか」が見えなければ、人は動きません。

だからこそ、戦略は「ストーリー」で語る必要があります。

戦略が「わかりづらい」のはなぜか

そもそも戦略は、目に見えないものです。
さらに、不確実な未来を前提とするため、「失敗するかもしれない」という不安な気持ちもあることでしょう。

そのため、戦略が発信されても、受け手側である社員は次のように感じてしまうことがあります。

●意図が読み取れず、行動に結びつかない
●内容は理解できても、気持ちが動かない
●自分の業務にどう関係するのかわからない

こうした「解釈のズレ」や「納得感の不足」があることによって、現場がバラバラになってしまうことがあります。
そうなってしまうと、戦略が正しく実行されません。
そこで必要なのが「戦略のストーリー化」です。

戦略のストーリー化とは

戦略のストーリー化とは、単なる「戦略のわかりやすい説明」ではありません。
「なぜそれをやるのか」「どうして今なのか」「その結果どうなるのか」など、背景や時間軸などを交え、戦略の道筋を物語として描くことです。

たとえば、あなたが「新規事業を立ち上げる」と宣言したとします。
その際、以下のように語ったらどうでしょうか。

「当社は今後、個人向けのサービスに参入します。競合との差別化は、独自のアフターサポート体制です」

それなりに筋は通っていますが、聞き手の印象にはあまり残りません。
一方で、こんな語り方ではどうでしょうか。

「当社はBtoB専業ですが、ここ数年、個人のお客様からも製品のお問い合わせが増えています。特に“誰に聞けばいいかわからない”という声が多く、これは既存の企業では対応しづらいニーズです。だからこそ、私たちは“迷わず使える”個人向けサービスを展開します」

ストーリーというほどではないですが、同じ内容でも、こちらの方が具体的な背景や目的がわかり、聞き手の納得感も高まるのではないでしょうか。

「戦略の3つの問い」で構想を深める

戦略をストーリー化する際に意識したいのが、「誰に」「何を」「どうやって」、という3つの問いです。

【WHO】誰に届けたいのか?

まず重要なのが、顧客の明確化です。
これは単なる「年齢・性別」といった属性ではなく、課題、価値観、行動パターンまで掘り下げる必要があります。

・その人は何に困っているのか?
・何を当たり前だと思っているのか?
・どんな価値観に共感するのか?

このような問いによって顧客が具体化され、提供する価値の方向性が定まります。

【WHAT】どんな価値を提供するのか?

機能やサービスのスペックではなく、「顧客にとってどんな良いことがあるか」を描くことが重要です。
特に、感情や体験における価値(安心感、達成感、期待感など)は、強力な差別化要因です。

顧客が気づいていない「潜在的な価値」まで想定できれば、より優れた戦略になります。

【HOW】どうやって提供するのか?

価格、販路、プロモーションなどの「届け方」も、ストーリーの一部です。
「当社らしさをどう表現するか」「競合との差をどう伝えるか」などを考え、HOWを設計します。

この3つの問いを軸に戦略を構想することで、
「なぜそれをやるのか」「どうしてこの手段なのか」
というストーリーが強固になります。

プレゼンテーションは「行動」を促すために

戦略を共有し、社内を巻き込むには、プレゼンテーションの力が欠かせません。
ここで誤解されがちなのが、プレゼンテーションをうまくやろうとして「きれいな資料」や「話し方の上手さ」が目的になってしまうことです。

プレゼンの目的は「聞き手が納得し、行動すること」です。
聞き手が腹落ちするためには、次の3点が重要です。

●構成:話の順番、強調ポイント、繰り返しなどにより理解を促す
●内容:数字や事例、比較データ、言葉などの表現
●デリバリー:表情、声のトーン、ジェスチャー、問いかけなど

特に、数字やストーリーテリング、実例などを交えて話すことで、「頭」だけでなく「心」も動かすことが大切です。

情熱を伝える

組織を動かすには、多くの人が戦略に共感・納得して、自分ごととして捉えてもらう必要があります。

そのためには、理路整然とした計画書だけではなく、「なぜ自分はこの戦略を実行したいのか」について、熱意や背景まで含めて伝える必要があります。

●なぜ、この事業に取り組むのか
●どんな顧客に喜んでほしいのか
●どんな未来を描いているのか

こうした意志がストーリーとして伝わると、戦略が単なる共有から共感に変わり、組織は団結します。

最後に

戦略によって意思決定がなされ、組織はそれに沿って動きます。
このとき、単に数字やきれいな目標だけを語っても、人は動きません。

大切なのは「その戦略にどんな思いがあるか」「それをやると、どんな未来が待っているのか」というストーリーを丁寧に描くことです。

そのストーリーが、現場の納得を生み、行動を起こし、結果として組織の力を最大化します。それにより、戦略は成功します。

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