
「顧客のニーズが大切だ」
「顧客のニーズを知ることがビジネスの成功に必要だ」
これらに反対する人はいないはずです。
しかし、本当でしょうか。
一般的に、顧客ニーズとは「どこかに隠れている答え」のようなもので、それを探り当てれば売れる商品が作れる、と考えがちです。
いわば、運動会で小麦粉の中から飴を探すようなイメージです。
ですが、「そんな風にばっちりうまくいけば苦労しない」のが正直なところです。
はっきりとした「顧客ニーズ」なんて「存在しない」くらいに思っていた方がよいでしょう。
顧客ニーズは「見つける」というよりも、「解釈する・引き出す・こちらから提案する」ものとして捉えるべきです。
あえてたとえるなら、美術館で抽象画を眺めながら「作者が伝えたかったことは何だろう」と考えるような感覚に近いです。
「顧客ニーズ」は明確な形では存在しない
たとえば、あなたがビール会社の人から
「あなたがビールに求めるニーズは何ですか?」
と聞かれたとしましょう。
(お酒が飲めないのなら、ペットボトルのお水やお茶に置き換えてください)
多くの人は、
「おいしい」「冷たい」「のどごしが良い」
といった、当たり前のことしか言えません。
ありきたりで、よそから借りてきたような言葉でしか答えられないはずです。
しかし、実際のニーズはより深い「気持ち」や「場面」に紐づいています。
「そうですね…仕事を終えて、疲れているときに、小鉢が2-3品あって、それで冷えたビールをグイっとやったら、ああ次の日もがんばろうか、って気持ちになりますね。そんなときはワインや日本酒、お茶や水ではダメですね。なんというか、ちょっとした生きる活力源、みたいな感じですね」
こんな風に「ビールのニーズ」を答えてくれる人は、ほとんどいません。
つまり、顧客自身も自分のニーズをわかっていないのです。
「自覚する顧客ニーズ」も確かにあります。
しかしそれは「安い」「おいしい」「性能が良い」のような、一般的なことや漠然としたことがほとんどです。
「顧客ニーズ」は引き出す・提案する
「お客様に聞けばわかる」と考えるのは危険です。
実際に「何が欲しいですか?」と尋ねても、返ってくるのは「今すでにあるもの」か「その改良版」か「非現実的な夢物語」のどれかです。
iPhoneが登場する前に「スマートフォンが欲しい」と答える人は誰もいませんでした。
にもかかわらず、iPhoneが出てみると「欲しい!」と感じました。
「ニーズ」は「すでに明確にある、だけど隠れて見えないだけ」というイメージかもしれませんが、そうではありません。
マーケティングの本質は
「(すでにどこかにある)ニーズを探り当てること」ではなく、
「(顧客自身も気づいていない)ニーズを引き出し、解釈し、提案すること」にあります。
まとめ
顧客ニーズは「どこかにすでにある」ものではなく、こちらが能動的に引き出す・提案するもの
「何が欲しいですか?」と聞いても、本質的な答えは返ってこない
顧客の心の奥にある「まだ認識されていない欲求」を形にすることが重要
「じゃあ、その形になっていない顧客ニーズを引き出す・提案するにはどうすればよいのか?」
については、別の機会でご説明します。



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