【価値交換フロー】014 リップモンスター(口紅)のマーケティングを解説

価値交換フローは、顧客にとっての価値とその価値を交換する仕組みを整えることで、次に取るべき行動を明確にする実行型フレームワークです。 自社のマーケティングのどこが不十分なのか、お客様が買わない原因はどこにあるのかを的確に突き止められるため、「マーケティング実務の普遍的な基盤」として、新規事業の立ち上げや、既存商品の立て直し、施策の優先順位付けなど、規模や業種を問わずさまざまな場面で活用いただけます。

価値交換フローの詳細はこちら https://www.tofusha.co.jp/vex/

リップモンスター(口紅)のマーケティング戦略とは?

「価値交換フロー」を用いて、企業のマーケティング戦略を解説します。
今回は、化粧品ブランド「KATE」の口紅「リップモンスター」を取り上げます。
同商品は、発売から5年が経過した現在でも、新作が出るたびに完売が報告されるほど人気となっています。

私も化粧品会社に勤めていたので体感していますが、化粧品は移り変わりが非常に激しい業界です。
数ヶ月単位でトレンドが入れ替わり、新商品がすぐに埋もれてしまう、なんてことも珍しくありません。
しかし、このリップモンスターは、「見つけたらすぐに買わないと後悔する」と言われるほど、安定した支持を保ち続けています。

同商品は、単なる一過性のブームで終わることなく、数年にわたるロングセラーとなっています。
背景には何があるのでしょうか。
その構造を、価値交換フローの視点から解説します。

1.潜在的な需要をとらえた、価値の「自分ごと化」

マーケティング=価値交換フローにおいて大切なのは、お客様が「これは自分にぴったりだ」と思えるかどうか(自分ごと化)です。

リップモンスターが発売された2021年は、コロナウィルスの影響で、誰もがマスクを着用していた時期でした。
それに伴い、口紅全体の売れ行きも落ち込んでいました。

それに対し、同商品は唇の水分を使って密着する独自技術を前面に出し、「マスクをしても、食事をしても色が残る」という価値を提案しました。

当時、多くの人が
「せっかくメイクをしてもマスクに付いてしまう」
「外したときに顔色が悪く見える」
という不満を抱えていました。

そこに「色が落ちない」という明確なメリットを提示したことで、お客様は
「他にはない、まさに自分のための商品だ」
と強く認識し、「自分ごと」になりました。

この価値は、マスクの着用がさほど日常的ではなくなった現在でも機能しています。
「長時間の仕事が続いても血色が保てる」
「食事の席でも塗り直す手間がいらない」
といった、同商品が役立つ場面は、マスクに関係なく生活の中で存在するからです。

単に「今期の流行色はこれですよ、おしゃれですよ」といった流行や感性のみに訴えるのではなく、「日常の不便をなくす機能」として価値を定義しました。
だからこそ、買い手にとってはメリットが明確で、自分にぴったり、と認識されました。

2.語りたくなる仕掛け、独自ベネフィットの拡散

化粧品はヒット商品が誕生すると、他メーカーは追随して類似の商品を発売します。
それでもなお、リップモンスターのシリーズはお客様に選ばれ続けています。
その理由のひとつは、商品の特徴がそのまま「誰かに伝えたくなる言葉」となって、自然と拡散されているからです。

この口紅の各カラーには、「欲望の塊」や「誓いのルビー」といった、少し印象的な名前がつけられています。
これらは単なる識別のための名称ではありません。
SNSでレビューを投稿する際、魅力的なタイトルとなるように工夫されています。

さらに、20種類以上の豊富なSKU(種類)があることで、お客様が自分の肌色に合う色を検証したり、比較したりする独自の楽しみが生まれました。

購入した人が自然と「この色を手に入れた」「他と比べてこうだった」と発信し、それを見た別のお客様がそれなら試してみたい」と感じる。
…と、広告に頼ることなく、愛用者の声が次の購入者を呼び、お客様同士での「情報の交換」が自然に循環する状態になっているのです。

3.供給の調整、交換のコントロール

どれほど価値があり、評判が良くても、いつでもどこでも手に入る状態が続くと、次第に新鮮さは薄れていってしまいます。
ブランドの鮮度を維持するために、リップモンスターでは流通と情報の交換を適切にコントロールしています。

ブランド側は、すべてのバリエーションを常に店頭に並べるのではなく、一部をオンライン限定にしたり、季節に応じた限定コレクションを定期的に投入したりしています。

「今を逃すと手に入らないかもしれない」と、適度な飢餓感を設定しています。
日常的な商品でありながらも、店頭で見かけた際には「今買っておかないと」と、購入を刺激されます。
商品の価値そのものは変えず、また、巨額の広告や販促をするのではなく、季節ごとの新しい見せ方・語られ方を用意することによって、お客様との「交換」を常に新鮮に保っています。

リップモンスター × 価値交換フロー まとめ

今回の事例を、価値交換フローの視点でまとめます。

価値の「自分ごと」:
流行を追うのではなく、「色が落ちない」という日常の普遍的な不満にフォーカスした。
それを解消するための機能を定義し、口紅の定番としての位置づけを築いた。

交換の最適化:
印象的な名前や豊富なバリエーションで「発信したくなる」仕組みを作った。
さらに流通のバランスを調整することで、購入時の満足感や新鮮さを維持し続けている。

もし、この商品が単に「今風のおしゃれな口紅」としてアピールされていたら、これほど長い期間にわたって売れ続けることはなかったでしょう。

顧客にとっての「価値」を定義し、さらに関連した情報や手に入れやすさなど、価値や情報を「交換」する仕組みを整える。
このように、マーケティングを一貫したものにすることで、化粧品の中では比較的息の長いブランドとなっています。
価値交換フローの価値や交換がうまく機能している、といえるでしょう。

● お客様にとって、(一時的な流行やニーズではない)本当の価値は何か?
● その価値を、飽きさせずに新鮮な気持ちで「交換」してもらうにはどうすべきか?

口紅という、比較的成熟した市場だからこそ、小手先の工夫に走らず、しっかりと「価値」を「交換」する仕組みがあることで、リップモンスターはヒット商品になりました。

【以下、補足です】

価値があれば値上げの影響を受けづらい
原材料費の変動などに伴い、同商品は価格の改定を行っています。
しかし、値上げ後においても、限定品は初日から完売が報告されるなど、その支持は揺らいでいません。
お客様は「安さ」だけで選んでいるのではなく、「この機能と楽しさが得られるなら、値上げ後の価格を支払う価値がある」と納得している、と言えます。
その価値がしっかりと信頼されていれば、値上げといったネガティブな要素にも影響を受けづらいことがわかります。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です