マーケティングという言葉について、「市場調査」そして「お客様に聞いて、ニーズがあるものを作る」行為を連想する方が多いようです。
私は研修やコンサルティングなどで
「お客様に聞いても欲しいものはわかりません」
「お客様が欲しいと言うものが、本当に欲しいものだとは限りません」
とよく言います。
その真髄がドラえもんに描かれていました。
以下、その話のあらすじです。
しずかちゃんの誕生日に、のび太たちは誕生日プレゼントを送ることになった。
ジャイアンやスネ夫は豪華なプレゼントを用意するが、のび太はしずかちゃんが欲しいものはわからない。かといってしずかちゃんに聞くわけにもいかない。そこでドラえもんにひみつ道具を出してもらう。その道具は、しずかちゃんの遺伝子がわかるもの(髪の毛)を入れると、バーチャルのしずかちゃんを画面上に映し出し、質問すると本来のしずかちゃんと同じ回答をしてくれるというもの。
※このひみつ道具、DNAとかAIとかアバターとかVRとか未来(現代)を見越していて、当時の時代背景を考えるとすごいのですが、本題ではないので割愛します。のび太はそのバーチャルしずかちゃんに誕生日に欲しいものを聞くが、なかなか答えてくれない。しつこく食い下がるとようやく「焼きいも」だと恥ずかしそうに教えてくれる。焼きいもが好物だと知られるのが恥ずかしかったのだそう。
こうしてのび太は意気揚々と本物のしずかちゃんに「誕生日プレゼントは焼きいもだよ、好きなんでしょ」とプレゼントする。するとしずかちゃんは恥ずかしさからカンカンに怒り出してしまう…
のび太はしずかちゃんが好きな、欲しいものをプレゼントしたはずです。
にも関わらず、怒られてしまいました。
しずかちゃんにとって焼きいもが好きなことは恥ずかしく、隠しておきたいことだったのです。
マーケティングでいえば「顧客が欲しいもの」を提供したのに「喜ばれなかった」といえます。これはまさに冒頭の
「お客様に聞いても欲しいものはわかりません」
「お客様が欲しいと言うものが、本当に欲しいものだとは限りません」
です。
マーケティングではこのように
「見えている要素」と「見えていない要素」が実はズレている
ことは珍しくありません。
特に消費者心理を重視する広告では顕著です。
たとえば、ある自動車の主要購買層が60代の男性だとします。
このとき、広告で「60代の男性にぴったりの車です」と言うことはまずありません。
もっと若々しいモデルなどを使い、あたかも30-40代の人が主要購買層であるかのように演出します。
それによって「この車は若々しいイメージだな、気持ちが若い私にぴったりだ」と選んでもらえるのです。
「微糖缶コーヒー」も同様です。※以前にも書きましたが。
微糖缶コーヒーを選ぶ人の心理は、実は「甘さ控えめの缶コーヒーを飲みたい」ではありません。
「健康が気になるから、糖分を抑えたい」
なのです。
しかし「健康が気になる方のためのコーヒー」としてしまうと、
「味を犠牲にしていそう」
「健康を気にしてコーヒーを選ぶなんて軟弱」
「コーヒーを飲むときくらい健康を忘れたい」
と敬遠されてしまいます。
そこでネガティブな印象のない「微糖コーヒー」にしているのです。
(実際、微糖コーヒーってけっこう甘いですよね)
「お客様の言う通りにしてはいけない」
「お客様の欲しいものが本当に欲しい=買ってくれるものとは限らない」
こんなマーケティングの基本を、ドラえもんであらためて学ぶことができます。
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