顧客の言うことを聞いてはいけない

お客様が望むものを作っても、売れない

「顧客の言うことを聞いてはいけません」

私はマーケティングの研修やコンサルティングでこのように言うことがあります。

その根拠は
「自分の信念や思いを込めた良いものを作れば結果はついてくる!」
のような根性論ではありません。

顧客の言うことを聞いてはいけない理由はこれです。

顧客は自分の欲しいものはわかっているけど、
それが顧客の本当に欲しいものだとは限らないから

これだけ読むと「???」と禅問答のようになりますよね。
欲しいものはわかっているけど欲しいものではない、って???と。

アンケートの要望に対応したはずが…

次の例で考えてみましょう。

ある栄養ドリンクの会社が、顧客アンケートを取りました。
出てきた要望で多かったのが「苦くない、飲みやすい栄養ドリンクが欲しい」
そこでその会社は飲みやすい栄養ドリンクを開発、発売しました。
ところが、まったく売れませんでした。

なぜ売れなかったのでしょうか。それは、顧客は心の中では
「栄養ドリンクはマズいからこそ効きそう」
と思っていて、「おいしいドリンク」を求めていなかったからです。

顧客はアンケートで「苦くない栄養ドリンクが欲しい」と答えつつ、実際にはそんな商品は買いませんでした。

では、顧客はウソをついたのでしょうか?

そんなことはありません。そのときは本当に「苦いのが嫌だな、苦くないといいな」と思ったはずです。

ところが「○○がいい」と思うことと、「○○にお金を出して買いたい」と思うことは、大きく異なります。

このときの心理を氷山にたとえることができます。

お客様のアンケートの答え、つまり氷山の見えている部分は「苦くない栄養ドリンクを飲みたい」でした。

しかし実際の心理は「苦いからこそ、効くように感じる」なのです。

情緒的な表現を用いると、アンケートに答えるときは「頭」で、実際に買い物をするときは「心」で判断しているのです。

だからアンケートで出てくるのは、氷山の一角、見えている部分だけです。

私たちは氷山のその下、見えていない部分を突き止めなければならないのです。

缶コーヒーの微糖タイプ、誰がなぜ買う?

ではここでクイズです。

Q.缶コーヒーの「微糖タイプ」を買う人は、何を求めて(何が欲しくて)微糖タイプの缶コーヒーを買うのでしょうか?どんな人が微糖タイプの缶コーヒーを買うのでしょうか?

考えてみてください。

おそらくあなたはこのように考えたのではないでしょうか。

「缶コーヒーの微糖タイプを買う人は、従来の缶コーヒーだと甘すぎると感じ、甘さ控えめのコーヒーを求める人だ」

普通はこう考えますよね。

しかし「微糖だから甘さ控えめを飲みたい人」は、まさに氷山の見える部分だけの指摘です。

実際の微糖タイプ缶コーヒーを飲む人の心理はこれです。

「健康に気を使いたい」

味の好みもゼロではないでしょうが、「砂糖のとりすぎは体によくない気がする」と考える心理が「微糖」を選ばせているのです。

冷静に味わってみると、「微糖」コーヒーも実はけっこう甘いんですよね。

微糖の缶コーヒーを買って飲む人は、「甘さ控えめのコーヒーを飲みたい」は実は表向きの理由で、「健康に気を使いたい」が実際の理由です。

では、氷山の水面下をズバリ指摘すればよいのか?

「だったら、最初から微糖タイプなどと言わず『健康志向のコーヒー』とすればよいのでは?」

そう思ったかもしれません。
しかしこれが人間の心理の難しいところです。

もしも「健康志向のコーヒー」がコンビニや自動販売機に並んでいたら?
コーヒーを飲むときはリラックスしたい、リフレッシュしたい、疲れを取りたい、そんな気分です。
そのときに「健康」を前面に出されたらどうでしょう?

何も考えずにリラックスしたいのに、いちいち健康に気を使っているみたいでちょっと…
それに健康重視だとおいしくなさそう…なんだか軟弱なヤツみたいだ…
の感情が先に来てしまいます。

氷山の水面下を突き止めることが大事。
しかしそれをそのまま伝えればいいわけではない。
これが難しいところです。

よくある例として、実際には60代が買っている自動車ブランドについて「60代のあなたのぴったりの車です」と宣伝してはダメ、と言われます。

それよりも、若々しさを前面を出して「自分より若い世代が買っている車(のはず)だ、その若々しさが自分にぴったりだ」と思ってもらわないといけないのです。

「お客様は~のニーズがある」等の文言を見聞きしたときは、

それは氷山の「見えている部分」のニーズか?
それとも氷山の「水面下」のニーズか?

をチェックしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

1.お客様の声をそのまま受け止めてはいけない。
2.お客様の声は「氷山の水面下」の心理が大事。
3.「氷山の水面下」がわかっても、そのまま宣伝などで指摘してはいけない。

代表・幸本陽平 プロフィール

幸本 陽平
幸本 陽平
化粧品デパートのマーケティング業務に携わり、その後独立。
研修や執筆、マーケティングをわかりやすく伝えるための活動などに取り組む。

(株)東風社代表取締役 中小企業診断士 一橋大学卒
広島市在住、新潟県長岡市出身

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