マーケティングを学べるゲーム 開発ストーリー

現在、当社ではマーケティングを学べるボードゲームを開発しています。
2024年5月に発表予定です。

その開発が佳境に差し掛かっています。
これまでの経緯や私の考えなどをまとめ、お知らせします。

ゲーム型研修を開発したきっかけ

私は研修講師・企業コンサルティングを行って14年になります。
日本を代表する大企業から、地場の中小企業まで、これまでさまざまな企業・業種を支援してきました。

これまでの研修を通じて、「もっとこうだったらいいのに」と思う点がいくつかありました。

1.楽しむことで学ぶ

「学ぶ」というと、講師の話を聞いて、あるいは自学自習で、じっと頑張る、苦しいことに耐えてこそ、というイメージがあります。いわゆる受験勉強のイメージです。
学びとその成果について、「辛いからこそ得られるものがある」、逆に言うと「楽しんで成果をあげることはできない」というイメージがないでしょうか。

しかし、本当の意味で人が知識や技能を吸収するのは、その学びの対象が楽しいと思えてこそです。
楽しければ、自然に取り組みますし、努力も苦になりません。
「好きこそものの上手なれ」という言葉もあります。
ドラクエの呪文やカードゲームのルールなど、あなたも苦労してがんばって覚えたわけではなく、楽しんでいるうちにいつの間にか覚えたはずです。

ビジネスに関しても同様です。
「難しいことを、頑張って覚えてこそ」ではなく、楽しむことが効果的な学びにつながると考えました。

2.学んだことの実践

研修についてよく「机上の空論」「実務では実践できない」などと批判されます。
いわゆるOff-JTとOJTでは役割が異なり、組み合わせが大事なのであって、Off-JTである研修が無意味などということはない、と私は思います。

しかし研修に「すぐに役立つ」「目に見える」効果を求めるのも事実です。
そこで、私も実務に近づけようと、研修でよくワークをしてもらいます。
とはいえそのような場合も、「ワークをすること」「みんなで話し合いをすること」が目的になってしまいがちです。
研修のワークですばらしいアウトプットが出せた、これは業務に直結しそう、と感じた経験は、正直なところほとんどありません。

ワークを行ってもらい、それについての不足や課題を講師の私が指摘する、はい次…とレビューのような流れになってしまいがちです。
研修のワークの時間だけでは、「ビジネスを模擬的に実践した」と実感を得ることは困難です。

ワークの実施以外で、より学んだことを実践するには、ゲームを通じてアウトプットをすることが有効だと考えました。
ゲームをプレイすることで成否などの成果が得られたり、他者からの反応があったりします。
より多くの相互作用が生まれ、ビジネスでの実践に近づくことが期待できます。

3.交流、コミュニケーション

研修では前述のようにワークを行うことがあります。
役割分担を指定したり、担当を割り振ったりとするものの、どうしてもワークで「積極的で中心になる人」と「消極的で受け身の人」が出てしまいます。
中には、消極的な人がいいアイデアを持っているのに、リーダー格の人が暴走してしまい、傍から見ているとあの人の案をもっと生かせばいいのに…と思うことも。
研修でワークがあるからと言って、社員間のコミュニケーションが深まるとは限りません。

また、交流やコミュニケーションが十分なように思えても、単なる近況の報告など、雑談をして盛り上がって終わるだけでは、研修の場としてはもったいないと思います。
さらにコロナ禍では対面の集合研修が減ってしまったことで、これまで以上に社員同士のコミュニケーションの機会が失われました。

異なる職場で働く人同士が顔を合わせ、交流することも研修の機能の一部だっただけに、研修での交流が減ってしまったのは残念なことです。

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以上から、研修について今まで以上に
「楽しんで学ぶ」「学んだことがすぐ実践できる」「交流・コミュニケーションが生まれる」
ものにできないか、と長年考えていました。

なぜゲームなのか

以上の要因を元に、もっと研修を進化・深化させられないかを検討し、一部については実施しました。
たとえば研修をRPG(ロールプレイングゲーム)に置き換え、途中でクエストが発生し、その成果に応じたポイントを獲得して個人・グループで競いあう…などです。
これはこれで研修が楽しくなり盛り上がってよかったのですが、「実践」や「コミュニケーション」等の面でまだ改善の余地があると感じていました。

そこで私が着目したのがゲーム、特にボードゲームやカードゲームといった電源を使わない「アナログゲーム」です。

きっかけは、コロナ禍で息子がアナログゲームで楽しんでいたことでした。元々テレビゲームは好きだったのですが、たまたまコロナ禍ではカードゲームに夢中になっていました。そこで、有名どころのボードゲームをプレゼントすると、それにも夢中になっていました。テレビゲームやYoutubeといったデジタルなものにばかり興味があると思っていたので、意外な発見でした。

特に、ゲームでお金を競い合ったり奪い合ったりする点が面白いようです。テレビゲームだと単なるデジタルの数字が動くだけですが、アナログゲームでは実際に紙幣や硬貨(を模したもの)をやり取りするので、その点が楽しく、夢中になっているようです。

アナログゲームの中には、すごろく形式で歴史や都道府県を学ぶものもありました。
それらを通じて私は「企業研修もアナログゲームでできないだろうか」と考えました。

調べてみると、経営などを学ぶアナログゲームはいくつかありました。しかし、テーマを経営としているだけで実際の業務や経営とは何の関係もない、というものもありました。また、ルールが非常に複雑で、学ぶよりもルールを学ぶうちにゲームが終わるのでは、と懸念されるものもありました。

そこで「業務に直結して」「ルールがわかりやすく、楽しめる」アナログゲームがあれば、研修の学びとして最適ではないかと考えました。

既存のビジネスゲームの多くは経営全般をテーマにしているため、私は「マーケティング」をテーマにすることにしました。既存のゲームの中にもマーケティングをテーマとしているものはあるようですが、私が見た限りでは経営の出店・広告・販売などに重きを置いているので「マーケティング」と総称したり、実務や学問のマーケティングとは何の関係もないテーマでも、とりあえずキャッチーなマーケティングという響きを使ったり、といったゲームが見受けられました。

私はそれらとは異なり、実務・学問のマーケティングに直結し、なおかつわかりやすいゲームとしたいと考えました。

ルール開発

ゲームの開発に着手するにあたり、まずはルール開発に取り組みました。

ルールを考える上で一番の問題は
「マーケティングとしての学び」と「ゲームとしての面白さ」を両立
させることです。

マーケティングとして学びがあっても、面白くなければ夢中になって楽しめません。
一方、ゲームとして面白くても、「それはマーケティング用語を使っているだけで、マーケティングの実務とは一切関係ないよね」となっては、研修に用いることはできません。

特に難しかったのが、マーケティングをゲームの勝敗やルールとすり合わせることです。
これが経営全般についてのゲームだったら、わかりやすく「最もお金を稼いだ人の勝ち」などとすることができます。
しかし、マーケティングは何が「勝ち」なのでしょうか?世界的な大企業を経営して何兆円も稼ぐのも、地元で小さい商店を経営して家族を養うのも、ある意味どちらもマーケティングの成功であり、勝ちです。
だから「お金をもっとも得た人が勝ち」と安易にしてしまうことは違和感がありました。
とはいえ、ゲームなので勝ち負けの要素を持たせる必要があり、その設定に苦労しました。

また、ゲームを通してマーケティングの何を学んでもらうか、もポイントです。
あくまでもゲームなので「マーケティングをうまくやった(うまくいった)人」が勝ち、というルールにしたいものの、では何をもってしてマーケティングをうまくやったと言えるのか?をルールに落とし込むことが困難です。
マーケティングにはいろいろなセオリーがあるものの、これが成功・正しい・絶対儲かる!があるわけではないので、マーケティングの成功=ゲームの勝ちパターン、を考えることが難しかったです。

そのため、マーケティングのうまい・下手、成功・失敗を問わずに、ひたすらマーケティング用語が出てくるゲームにしようかとも考えました。ゲームを楽しんでいるうちに、いつのまにか出てくるマーケティング用語とその意味を理解している…というゲームです。しかし、それでは本来のマーケティングの「活動」をゲーム化したものではないので、却下しました。

ゲームのルールを考えるために、まず「マーケティングを行う上で大事なこと」「大事なのに、多くの人が意外と見落としていること・気づいていないこと」をリストアップしました。たとえば以下のようなことです。

・4Pの一貫性が大事。
・4Pで一番地味な「流通」は実はとても大事。なぜなら売る場所や方法がなければどんなすごいものでも売れない。
・常に正しい戦略や戦術があるわけではなく、市場や顧客、競合の状況によって取るべき行動は変化する。
・競合はある程度意識する必要があるものの、意識しすぎはNG。それよりもお客様を見る。
・自社の資源には限りがある。資源内で成果を最大化する取り組みを行う。

遊びながらこれらを学べるゲームにしよう、と考えました。
そして、試行錯誤の末、マーケティングの4Pを軸としたルール設定とすることにしました。
4Pのうち、商品・流通・販促を組み合わせ、顧客に販売する、というルールです。
4Pの「価格」をどうするか悩みどころでしたが、マーケティングの一貫性という点では高価格ならOKで低価格がNGというわけではないので、価格=得点とはしませんでした。

ゲームはゲームと割り切り、価格の要素は思い切って除外し、代わりにMP=マーケティングポイントという指標を得点として採用することにしました。

ゲームテーマは、親しみやすくするために「お菓子」としました。普遍的かつあまりビジネス要素が強くないテーマのため、どんな人でも親しみやすくなるのではと考えました。

※ゲームのカードイメージ

息子とテストプレイ、わかったこと

基本ルールができたら、コピー用紙や台紙で簡易なゲーム見本を作り、実際に息子と遊んでみました。
最初は「ルールの確認」や「ゲームバランス」といった、「ゲームとして成り立つか」の確認を目的としたテストプレイでしたが、実際にやってみるといろいろなことがわかります。たとえば…

・特定の動作が、時間がかかって面倒。それをしている間、ゲームが止まってしまい、他の人は手持ち無沙汰になってしまう。
・相手との駆け引きや、相手の手札に影響を与えるような要素がないと、淡々と各自の手札を揃えるだけになってしまう。状況に応じた押し引きや作戦があるほうが盛り上がる。(麻雀をご存知の方であったら、「チーやポン、振り込みなどがない、ひたすら自分の牌を集めるだけの麻雀」を想像したら、楽しくなさそう…と思うはずです。)

以上のように、ゲームルールとしては問題なくても、なんとなくテンポが悪い…他の人のターンの時に自分はやることがなくてヒマ…駆け引きや戦略性がない…などとなってしまうと、ゲームとしての面白みが削がれてしまいます。これはテストプレイをしてみてわかったことでした。

ゲームの面白さはルールだけではなく「流れ」や「暇な時間があまりない=自分が関与している時間がある程度多い」ことが大事なのだとわかり、ルールもそれらに合わせて改善しました。

さらに大切なのは、研修の中のゲームとして位置付ける以上、ルールが複雑すぎてはいけません。
簡単なルール説明や手元資料だけで楽しめるようにしなければなりません。

しかしゲームとしての面白さや駆け引きは、ルールの単純さとある意味では反比例する面があります。
ゲームとして面白くするにはある程度ルールが複雑なほうがよい、しかし複雑すぎてその日に初めてゲームをする人が理解できないようなルールでは研修には使えない…とバランスに苦心しました。

そしてゲームとして大事なのは、「思考」と「運」のバランスです。
・将棋のように実力差がもろに出てしまうようなゲームだと研修内で楽しめない。
・かといって単純なすごろくのような、ほぼ運100%でもやりがいがなくつまらない。
…と、運による部分と、作戦を考える思考の部分、それぞれのバランスに苦慮しました。

以上のようなことを構想も含めると3年以上も試行錯誤しながら、ようやくゲームの基本ルールや仕様が完成しました。

ゲームを作る、広げる

実際にゲームを作るとなると、主に以下の取り組みが必要です。

・ゲームのカードやゲームボード(プレイシート)等をデザインする。

こちらはデザイン会社にお願いしました。
その会社はケーキ店の各種デザインなどもされていて、そのケーキ等のイラストを私自身が気に入り、お願いしました。実際に、素敵なテイストの絵を描いてくださいました。

・デザインをカードやボード等に印刷する。

こちらはアナログゲームの各種印刷を得意とする印刷会社にお願いしました。
アナログゲームの印刷に関しては私は素人であるため、事前にオンラインで打ち合わせを行い、不安を解消しました。

・その他のゲームツールを用意する。

サイコロ、コマ、MP(マーケティングポイント)用チップなどです。

さらに、告知用ウェブサイトの作成、プレスリリース、検索連動広告などを行います。
本ゲームは単体での販売用ではなく、あくまでも当社の研修の一部であるため、その点をふまえて営業・販促活動を行います。

大まかなスケジュール

2021年ごろ 構想を開始
2023年下期 制作に着手
2024年5月 完成、告知開始

最後に

いかがでしたでしょうか。

「マーケティングを学べるボードゲーム」の開発に至るプロセスや、それに関する苦労や考えをご紹介してきました。

いろいろと書き連ねましたが、これらは裏方の話であり、プレイして学ぶ人にとってはどうでもいいことばかりです。

私にとっては、このボードゲームを多くの人が遊び、
「面白い!」「マーケティングについてよくわかった!」
と思っていただければ何よりです。

どうぞご期待ください。

代表・幸本陽平 プロフィール

幸本 陽平
幸本 陽平
化粧品デパートのマーケティング業務に携わり、その後独立。
研修や執筆、マーケティングをわかりやすく伝えるための活動などに取り組む。

(株)東風社代表取締役 中小企業診断士 一橋大学卒
広島市在住、新潟県長岡市出身

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